​ナイト・アミューズメントを読み解く 

国土交通省観光庁観光資源課が、「ナイトタイムエコノミー推進に向けた知識集」をこのタイミングで発表した理由は恐らく二つでしょう。

​一つは、前章で引用した文字通り「国(内)外の旅行者の地域への誘客、交流人口の拡大により今後の経済を支える重要なテーマであること」そしてもう一つの重要なメッセージが、今まさに実現に向けて動き出した「IR」の美名の陰に潜む国家規模でのカジノ構想の正当化です。

IRとカジノについては後日ページを改めて詳細に検証しようと思いますので、この章ではナイトタイムエコノミーが日本において観光客誘致に本当に役立つのかに焦点を絞って考えてみようと思います。

前述の「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」の中にこのような文章があります。

​1.近年、訪日外国人旅行客は増加しているもののその消費額は4.5兆円程度であり、一人当たりでは15万円程度(中略)頭打ちになっている。

2.外国人約1万人を対象にWEBアンケート調査を行った結果、訪日旅行の際のナイトタイムコンテンツの体験者の割合は、海外での体験者の割合より低くなっています。

3.ナイトタイムコンテンツの満足度においても、国内での体験の方が海外より低い結果となっています。

そして、彼のナイトタイムコンテンツの実例として、ニューヨーク・ブロードウェイのミュージカルとメトロポリタン美術館のナイトミュージアム、シドニーのパブをあげています。更にご丁寧にも それらを我が国への展開に向けたポイント、と銘打って ”コピー&ペースト” するに当たってのアドバイスまでしてくれています。

​確かに訪日外国人旅行者数は毎年右肩上がりに伸びており、2020年にはオリパラ特需も追い風になって政府が目論む通り4,000万人も達成できそうな状況にありながら一方でその消費額は目標の8兆円にほど遠い6兆円程度にしか届かない予想です。しかし、この消費目標8兆円(客一人あたりで凡そ20万円)は中国人旅行客の「爆買い」と称される持ち帰り土産購入の時期真っただ中で試算されたもので「爆買い」消費を差っ引いて冷静に考えれば訪日旅行客の一人あたりの消費額15万円はかなり妥当なもので、2020年に4,000万人が各15万円を消費すれば総額6兆円になることは現実的な数字であると言えるでしょう。

又、1万人を対象にしたアンケートと注釈をつけられるとグッと現実味を帯びて聞こえますが この結果を我が国におけるナイトタイムコンテンツを他国と比べて未熟乃至は不足していると判断すること自体無意味なことと言わざるを得ません。

日本人が古くから「夜明けとともに早起きして畑に出て日暮れまで野良仕事、早寝して明日に備える」早寝早起きの生活習慣を持っており、「夜遊び = 不良」がいまだに小学校の道徳の教えになっている故 日本はナイトコンテンツを楽しむ(楽しませる)文化的な素地を持たない国であると理解すべきなのです。

異なる国、地域の文化と日本の文化を同じテーブル上で単純比較して「遅れている、不足している」と短略的な判断をしては正しいツーリズムのあり方を見誤ってしまいます。

ヨーロッパの国々の生活・文化をナイトタイムコンテンツの視点から見てみますと、例えばスペイン、今ではかなり少なくなってしまいましたがシエスタ(昼寝)の文化があります。銀行員も商店主も公務員も、昼食の時間を大切にして昼間の熱い時間帯に体を休めて午後の仕事と遊びに備えます。その結果、夜の時間を有効に活用できることから 夕食の時間が遅くなり必然的にナイト・アミューズメントが発達して真夜中0時を回ってもなおフラメンコを見ながら酒を酌み交わす文化が育ち、観光客もこの時間帯にコンテンツを楽しむことになるのです。

同様に、オーストリア・ウィーンでは音楽が人々の生活の一部となっており、クラッシックコンサートやオペラは基本的に夜のアミューズメントとして地元の人々に親しまれています。仕事を終えた後、夜の装いに着替えてナイトタイムコンテンツを楽しみ 21時〜22時に幕が下りてから街中で遅めの夕食を楽しむのが当たり前の日常なのです。

このようにナイトタイムコンテンツが充実している一方で忘れてはならないのが、ヨーロッパの国々ではほとんどの商店が土日は営業していないと言うことです、即ち観光客も土日に買い物というデイタイムコンテンツを楽しむことができないという現実があるのです。

たった二つの国、スペインとオーストリアを見ただけでも彼の地の夜間文化と日本の昼間文化との間に大きな隔たりがある上、両方の国のナイトタイムコンテンツは決して外国からの観光客に向けて人為的に作られたものではなくそれぞれの国の長い歴史が固有の文化を生み出しそれを旅行客がコンテンツとして楽しんでいることに注意すべきなのです。

では、年間3,000万人の外国人観光客が訪れるようになった日本においてナイト・アミューズメントは必要ないのでしょうか? 

私は、日本に文化として根付いている夜の行事と 観光客向けの見世物をはっきりと区別して成立させることが重要であると考えます。即ち、日本人が12月31日の夜に神社を訪れて108つの鐘の音を聞き一年の無事を感謝し、来るべき新年に向けて神に無病息災を祈る行為は日本文化として連綿と続けられている素顔のナイトタイムコンテンツであり、観光客にもそのコンテンツを体験として分かち合うべきだと思います、密教文化の最たるものとして受け継がれる不動明王の護摩法要も夜の宗教文化であると確信しつつ、許されるのであれば旅行者に実体験の場が与えられればこれもまた価値あるナイトタイムコンテンツになり得ると考えます。

一方でテーブルと椅子で和食を提供し和服を着た「芸者」擬きが舞を踊り、黒ずくめの「忍者」が模造刀を振り回して拍手喝采を浴びる「お座敷ショー」も一つのナイト・アミューズメントとして認められるべきであると思いますが、張りぼての紛い物の見世物ナイトコンテンツによって(デイタイム、ナイトタイムを問わず)日本の伝統文化を求める訪日外国人観光客が幻滅してしまわないように心掛ける必要があるのではないでしょうか。

土日もなく365日朝から夕方まで、どこに行っても買い物を楽しむことができ世界中の味覚を味わうことができる日本が持つ素晴らしい昼間文化を我々は胸を張って外国人旅行客に誇るべきであり、日本人が持ち合わせていない夜間文化を一部の外国人旅行者の財布の紐を緩ませるために上っ面を繕った張りぼてをもって官主導で創作する必要は無いと思います。

監督官庁が敢えてナレッジを分け与えずとも、観光客が求める限り民間はいち早くニーズに合ったサービスを提供するのですからほかの国々の成功例をコピー&ペーストして ”働き方改革に逆行するような深夜労働を提案する” のでなく我が国の民力を信じてコンテンツはマーケットにゆだねるべきであると思います。

さて、「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」をご覧になった、地方都市の観光推進ご担当者や DMO の皆さんが今後如何なるナイト・アミューズメントを引っ提げてインバウンド誘致をお考えになるのかとても楽しみです。どうかくれぐれも ”○○村・忍者ミュージアム、花魁+忍者ショー22時終演” なる箱物、ゲテ物を作らないことを願っております。

​ここまでお付き合いいただき有難うございました。

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