オーバーツーリズム - (1)
更新日:2020年5月18日
2019年1月~9月までの累計(速報)で日本を訪れた外国人の総数が24,417,803人となっています、このペースで第4四半期を予想しますと その数は前年の31,191,856人を抜いて過去最高となることは確実です。
驚くべきことに2014年に13,413,467人であった訪日外国人が過去5年間の間に2.4倍に増えることになります。
日本政府が掲げる成長戦略の柱の一つ、”2020年に訪日外国人4,000万人”の目標達成が可能なのか否かは別として これ程までの短期間に急増した訪日外国人をして、巷では「オーバーツーリズム」なる新語で ある種ネガティブな反応を示し始めています。
思い返すとほんの数年前にはインバウンド、訪日外国人、爆買いが流行語になり国内の自治体観光振興担当者や観光地の宿泊施設, 大都市の商業施設等が低迷するドメスティック経済の救世主として諸手を挙げて外国人観光客を歓迎したことが嘘のように感じてしまいます。
果たして、現在もなお増え続ける訪日外国人はオーバーツーリズムの元凶なのか、それとも少子高齢化による消費低迷に歯止めをかけ、あまねく地方経済を活性化するキーエレメントなのかをQuantity (量)とQuality(質)双方の視点から見てみることにします。
私が地域振興コンサルタントを始めた2017年当時、訪日外国人は前年(2016年)の2,400万人から500万人増の2,900万人になろうとしていました。実はこの時期ほぼ毎年500万~600万人ずつインバウンド市場は拡大を続けていたのですが、中でも注目すべきは総数の25%を占める中国からの訪日観光客でした。東京・大阪をはじめとする大都市で彼らが繰り広げたドラマこそが今では忘却の彼方に消え去ったショッピング・ツーリズム, 所謂 ”爆買い” だったのです。
当時東京の中心、銀座ではヨーロッパの名だたるブランドブティックの隣にドラッグストアの路面店が開店し日本屈指のデパートの上階には市中免税店がオープン。家電量販店には炊飯器が山積みになり、街中の個人商店までが免税店の看板を掲げて中国語で接客対応に努めたのです。
この時期我々日本人は、中国人のショッピング・ツーリズムを揶揄して「中国人の爆買い」とネガティブに表現しながらも訪日外国人=買い物=経済活性化、との短略的な方程式を新常識としてこのトレンドをポジティブに受け入れたのです。
翻って、1970~90年代の観光旅行黎明期の日本人観光客の姿はどうだったのでしょう? 当時はまだ航空機の性能が今日とは比べものにならないほど低く又ロシア上空を飛行するための航空路が開かれていなかったため日本からアメリカ中東部、更にヨーロッパに飛ぶには途中で燃料を給油する必要がありました。そこで途中経由地となったのが飛行時間7-8時間の中間地点であるアラスカのアンカレッジ国際空港でした。
最盛期には日本航空をはじめ欧米各国の飛行機が行きと帰り各々翼を並べ給油をする姿が壮観でした。空港内には 給油を待つ間乗客が買い物を楽しめるように巨大な免税店があり
日本語を話す従業員がジョニ黒、マルボロ、マカデミアナッツチョコレートを次から次へと袋詰めする姿がありました。それは、まるで銀座通りで大型バスを降りて両手に大きな買い物袋を幾つもいくつも抱える訪日観光客の姿そのままと言えるでしょう。
その後1990年代中盤までには航空機の性能向上とシベリア上空航路の開設により、日本を発着する旅客便はそのほとんどがアンカレッジ空港を経由することがなくなり 彼の地の免税店もその使命を終えて規模を急速に縮小することになったのです。
(注)貨物専用機は燃料搭載量を減らす目的から現在でもアンカレッジ空港を給油地としていますし、当地を貨物のハブ空港として活用しています。
30年の時を経て繰り返される日本人海外旅行客と訪日外国人によるショッピング・ツーリズムは同じ線路上を爆走する機関車の如くQuality(質)の面で地域経済に巨大な貢献をしたことは無視できない事実ですが、いつか訪れるバブル終焉の時を実感する盛者必衰の実例であることも理解すべき現実なのです。
さて、今日国内各地から「オーバーツーリズム」を枕詞とする、増え続ける訪日外国人旅行客に対する批判が噴出し始めていますが、それは本当にQuantity(量)的な問題として言葉通りの「オーバーツーリズム」なのか、否受け側の観点に立ったQuality(質)的な不満を「オーバーツーリズム」にすり替えてアテンションを引いているのかを冷静に見つめなおす必要があると思います。
確かに国内の一部の有名観光地はすでに何年も前から繁忙期には地域の収容能力を超えて押し寄せる国内・訪日旅行客による交通渋滞や、オーバーブッキング、物価高騰に悩まされています。しかし、それら有名観光地ですら旅行客が齎す経済効果の恩恵に対しては一定の評価をしていますし、あわよくば通年で100%のキャパシティー・ユーティリゼーションを目論んでいます。

そのような中 一部の(訪日)旅行客による非常識な - 言い換えると日本特有の道徳、しきたりを理解しない - 行動を「オーバーツーリズム」の弊害と一括りに切り捨ててしまっていることがとても残念です。
見ず知らずの旅行客が私有地に無断で入り込み、生活の場に土足で踏み込むことはその土地で生活する住民にとっては耐え難い蛮行でしょうしそれに対してクレームを申し立てることは至極当然のことです。確かに増えすぎた外部からの訪問者、即ち「オーバーツーリスト」が蛮行の遠因であることは否定できませんが 問題の本質はツーリズムのQuality(質)の変化にあると思います。
一頃の爆買いツーリスト達は市井の人々の生活の場には見向きもせず、ただお目当ての商店に流れ込み、そこに留まり纏まったお金を落とし風のように立ち去ってくれたのである意味で便利且つ許容すべき存在でした、しかし旅行客の嗜好(Quality)が ”購買・消費” から ”経験” に変わったことで期待していた経済的な効果が薄れるとともに旅行者は「お金すら落とさずに満足を得る無用で邪魔な」長物になってしまったのです。
2020年のオリンピック・パラリンピックを目前に控えて、訪日旅行者の数 (Quantity) が年々増え続ける 一方 彼らが求める旅行の質 (Quality) が変化していることを正しく理解し、求められる需要に対して柔軟且つ迅速、的確な観光資産の供給を進めることが観光立国日本の各地で求められることになります。
今後10年先を見据えて一極集中による量的「オーバーツーリズム」を解消する必要は万人が認めるところです。
今の ”点~to~点”プロモーションをできるだけ早く ”点~to~面+質”プロモーションに切り替えない限りこの先に待っているのは「オーバーツーリズム」の更なる悪化で住民が消え生活実態の無いアミューズメントパークと化した観光地の残骸か、飽きられて激減する宿泊客の後姿を為す術もなく見送る 値段の高さだけが自慢のブランド宿泊施設の抜け殻なのではないかと危惧しています。
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