如風
シーズナリティ(季節波動)
更新日:2020年3月23日
シーズナリティとは
ツーリズム関連の業界、サービスプロバイダーの間では ”シーズナリティ” という単語が常用されています。私は、このシーズナリティをツーリズムにおける需要の季節波動と訳すことにします。シーズナリティは必ずしもツーリズム業界の専売特許ではなく、野菜や果物、魚介の収穫時期や神社の賽銭の額の時期による変動、中古車販売の季節による在庫量の変化なども広い意味ではシーズナリティの影響を受けていると見做すことができます。逆に、元来野菜の収穫時期や賽銭の額の季節による変動をツーリズムの需給関係に置き換えた上、需給のギャップを数値化して旅館の客室占有率や 観光地の入れ込み率に適用したものがシーズナリティと理解したほうが自然でしょう。
今日、シーズナリティは世界中の宿泊施設、航空会社などが(一部を除いて)通年・通期で供給調整を行わない/乃至は行えない状況でサービスを提供する一方 時期によって変動する需要と如何にバランスを取りながら客室・座席の稼働率を上げて尚且つ売り上げを上げるかを見定める非常に重要な要素になっているのです。
サービスプロバイダーにとっては死活問題となるシーズナリティの読み方、一方で消費者たる旅行者はこのシーズナリティを如何に逆読みするかで50%~場合によっては80%も安く旅行することができるのです。
シーズナリティの歴史
さて、それでは現在のツーリズム関連業界でシーズナリティは一体何時頃から表れ始めたのでしょうか。
シーズナリティの顕在化には、航空会社が運航するジェット旅客機の誕生、就航 その後の大型化と性能向上が密接に関連していました。
1950年代後半、高まる航空需要に対応すべく航空機メーカーはこぞってジェット旅客機の開発・製造に着手しました。ボーイング707やダグラスDC-8など150席程度の客席数で、現在の基準から見れば中型狭胴機ではありましたがそれ以前のプロペラ機とは比較にならないキャパシティを持つ最先端技術に支えられた機体でした。
それでも60年代は座席の供給をはるかに超えるスピードで航空旅行の需要が伸び続けていた上 航空会社は国と、IATA(国際航空運送協会)の手厚い保護に守られていた為実態は、航空会社と航空機メーカーの売り手市場の状態が続いていました。
この状況が一転したのが1970年代です。ボーイング747、ダグラスDC10(後のMD11)、ロッキードL10-11などワイドボディー機と呼ばれる座席数400~500席もある大型機が次々と就航し始めると市場は一気にオーバーキャパシティ(需要過剰)となり飛行機には空席が目立つようになりました。更に1978年、当時のアメリカのカーター政権でディレギュレーション(航空自由化-規制緩和)が始まり航空会社に対する保護が薄れるにつれ企業間の競争が激化しその結果、アメリカでは多くの航空会社が淘汰され、ある会社は倒産して消滅、ある会社は競合する他社に吸収されて業界の再編成が一挙に進んだのです。
オーバーキャパシティと市場での自由競争がたどりつく先は、オフ・シーズン(閑散期)の航空運賃のダンピングと客の奪い合いでした。
空席だらけの大型飛行機を飛ばすわけにいかない航空会社は、オフ・シーズンに動かない需要を喚起するために莫大なマーケティング費用を費やして宣伝広告を打つ一方で契約旅行会社に販促費を流し込んでオン・シーズン(繁忙期)の50%以下の料金でツアー客を取り込む施策をセールスストラテジーと呼んで実施したのです。
前章から見てきたとおり、元来旅行の需要は複数の要因によって季節の波動が生まれ易いものでしたが年間を通して需給バランスが売り手市場であった時は、引き潮時の需要減も企業にとってそれほどシリアスな問題ではなかったのですが 市場がオーバーキャパシティによって買い手市場になってからシーズナリティは放置できない重大な課題になったのです。
シーズナリティ(需要の季節波動)を理解した上で次の章では、如何に効率的に需要を取り込み、目標となる座席(客室)占有率を達成して、売上高を極大化するかを実際のレベニューマネジメントとインベントリーコントロールの両側面から検証してみることにしましょう。
ここまでお付き合いいただき有難うございました。
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