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  • 執筆者の写真如風

レベニューマネジメント

更新日:2020年5月18日


B-777 @ Narita Int'l Airport

前章、「レベニューマネジメントと在庫管理」では、同一カテゴリーの座席に条件の異なる運賃を設定することで運賃レベル毎に在庫を管理しながら販売を増大させる手法を見てきました。ここからは、シーズナリティ 即ち(需要の)季節波動という変動要素を加味した状況でも空席を減らす一方売り上げを増やすレベニューマネジメントの手法を見てみましょう。

以下は前章でサンプルとした4種類のエコノミークラスの運賃表です。

エコノミークラスAP60(60日前事前購入) 100,000円

エコノミークラスAP30(30日前事前購入) 120,000円

エコノミークラスAP14(14日前事前購入) 150,000円

ノーマルエコノミー (事前購入制限なし)190,000円

より現実に近づけるため、次のような前提条件を仮定してみましょう。

1.A航空会社が運航する日本のB空港と中距離アジアの大型ハブ空港C間の直行便123便・124便

2.2月1日~28日までの毎日1往復運航

3.A航空会社は、C空港と中国本土の複数の空港間に毎日直行便を運航していて夫々が123便と124便に同日乗り継ぎが可能

4.中国の春節が 2月の中旬

以上の前提条件から、A航空会社のレベニューマネージャーは幾つかの仮説とともに販売予想を導き出します。そして仮説、

予想に基づきレベニューマネジメントの戦術を組み立てていきます。

(仮説・需要予想)

1.2月は日本人の海外旅行需要はオフ・シーズン。座席の消化のみに拘ると AP60 の運賃を大幅に下回るツアー造成運賃が必須

2.例年2月はノーマルエコノミークラスを利用する業務出張が低迷する一方下旬からは日本の学生旅行が活性化する

3.春節の時期は中国人の訪日旅行が活性化する為、C 空港を経由して乗り継ぎの需要も十分見込める

(日本発の運賃と販売座席管理)

通年で設定している各種運賃、AP60 / AP30 / AP14, ノーマルエコノミーは運賃構成上そのまま2月も継続して販売するが、AP60 / AP30 のインベントリーは期初には各々10席/20席以下に絞り込んで より高額な AP14 以上の運賃に誘導する。

2月上旬と下旬のいくつかの便に空席が見込まれる場合は柔軟にAP60 / AP30のインベントリーを開けて(増やして)早期に予約の取り込みを進めるが常にキャッピング(上限)を設けて客単価の下落を最小限に留める。

下旬から活性化するであろう日本発の学生旅行用に、出発日限定のツアー造成運賃 (IT運賃)を設定して安全策を講じる。ツアー造成運賃は業者間契約運賃とし、AP(事前購入)ルールは適応しないもののインベントリーは厳しくコントロールして高い運賃の予約を阻害しないように注意する。

(中国発の運賃と販売座席管理)

春節の訪日旅行客は前広に旅行の計画を立てて予約/購入も早い段階で完了する傾向にあるので、AP90(90日前事前購入)運賃をUS1,200で設定、以降 AP60 = US1,500、AP30 =US1,800 で販売。インベントリーは、AP90 / AP60 に各々20席程度でキャッピングして極力 AP30 以上の運賃に誘導する。(日本発 C空港行きの運賃より割高ですが、中国発運賃には 中国-C空港間の運賃も加わるため、又春節期間中の需要増を見込んでの意図的な価格設定です。)

春節前2週間程度は日本発・中国発ともに需要が低迷することが予想されるので、グローバル契約のある OTA (オンライン・旅行会社)限定のキャンペーン運賃を出して一定数の予約を確保する。

123便から、又124便に接続する中国各都市と C 空港間の直行便の需要も高まるが、より客単価の高い 中国-C空港-日本の ”通し運賃” 用にインベントリーをコントロールすることで売り上げを増やす。

自社の予約システムが積み立てている過去の販売実績データに人間の頭脳が組み立てた戦術をインプットすることで、客観的な経験値に基づいた理論上理想的な(戦略的)レベニューストラテジーに(戦術的)ヒューマンファクターの調味料が加わり、シーズナリティーによる需要の落ち込みを販売拠点、販売チャンネルのマルチセールスで極力平均化しつつ客単価を極大化するわけです。

ここで紹介した実例は、ミクロ分析でのレベニューマネジメントであり 実際のセールスの場では、競合する他社の価格戦略を無視することは出来ませんし、マーケティングやマイレージプログラムをはじめ各種の施策を複雑に組み合わせた総合的なアクションの実行が必要なことは言うまでもありません。

​同じカテゴリーのサービス(座席、客室)に購入時期と適応条件に応じて異なった料金を設定して更に、シーズナリティーに応じた在庫管理を行う手法は決して目新しいものではありませんが在庫の繰り越し販売ができない商品の販売には不可欠な要素であることは確かなものといえるでしょう。

​ここまでお付き合いいただき有難うございました。

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