如風
COVID-19とオーバーツーリズム
更新日:2020年4月19日
東日本大震災から9年目となる3月11日を迎えました。年明けからの新型コロナウィルス (COVID-19) の感染拡大に歯止めがかからず、感染源とされる湖北省武漢は言うに及ばず、イタリアでも国民の外出、移動を制限、隣接するオーストリアはイタリアとの国境を閉鎖、日本では中国・韓国からの到着者に14日間指定場所での(検疫)待機を要請、TDRやUSJ、博物館も学校も臨時休館、臨時休校、加えて世界の株式市場は2008年のリーマンショック以来の株価大暴落に見舞われています。
中華圏の春節期間に合わせて 2月に約一か月間オーバーツーリズムの実地調査(フィールドワーク)のため関西各地の観光地を訪れましたが、現実はオーバーツーリズムとは真逆の状況 、即ち-「突如何の前触れもなく訪日観光客の姿が消えた観光地」を見て回ることになってしまいました。
感染拡大に歯止めがかからないCOVID-19ですが、肺炎による直接被害の陰で懸念されるのが航空・旅行・宿泊関連産業への打撃です。3月9日に国際航空運送協会 (IATA) が、COVID-19が航空業界に及ぼす財政的な影響について分析結果を発表しました。それによると、仮に現状10人以上の感染者がいる国、地域で今後感染が拡大した場合、世界の航空会社が被る損害は日本円で凡そ12兆1,000億円に達すると試算しています。更に、COVID-19の終息宣言が遅れて第二四半期(4~6月)の後半にずれ込んだ場合、本来年間で最も旅客単価・座席占有率が高く営業収入が大きい第三四半期(7~9月)でのリカバリーチャンスを失ってしまう恐れがあり、その場合損失額は20兆円を超えることも考えられます。いずれの航空会社も2020年の第一四半期(1~3月)の損失を年内に挽回することは不可能ですから結果的にはほとんどの会社が赤字決算を強いられることは必至です。
状況は、ホテル業界も同様で宿泊客の減少に加えて本来イールドの高い飲食(F&B)、宴会、MICEがほぼ壊滅状態になってしまうため厳しい結果が見込まれます。その上、COVID-19の終息宣言を見据えて 航空会社もホテルも直販、OTAあらゆる販売チャンネルを通じてSuper Saleと銘打った原価度外視の安売りに走ることは明白ですので繁忙期に満席/満室での赤字状況が待ち受けていることも覚悟する必要があります。
こうしている間にも3月11日、アメリカは英国を除くヨーロッパからの入国を3月13日から向こう30日間停止することを決めたとの衝撃的な発表がありました。JALもANAも13日の東京株式市場の株価はこぞって年初来最安値(1,927円/2,35円)を更新、世界の航空業界の損失額20兆円が過小評価でないことを願うばかりです。
目を国内の有名観光地に向けてみますと大挙して押し寄せる訪日観光客による弊害、所謂オーバーツーリズムを声高に訴えていたある地域では このところ平穏な日常を取り戻せたのかもしれません(これはあからさまな皮肉です)。しかし一方で昨日まで訪日客が齎していたインバウンドマネーが突如ぴたりと止まったことで川上の観光ビジネスが枯渇し下流の飲食・小売りビジネスが打撃を受けて、それまで“好むと好まざる”にかかわらず訪日観光客に頼り過ぎていた地域経済全体が滞り始めていることに慌てているのではないでしょうか。
観光ビジネス、殊に日本がつい10年前まで経験したことのないインバウンドツーリズムと日本人富裕層旅行者の大波に自ら上手に乗ったようでありながら実は、”点~to~点x質” プロモーションに奔走し、本来大切にしなければならなかった一般の日本人旅行者や社内規定に縛られた出張旅客をないがしろにしたことで、この期に及んで「苦しい時の(中流)日本人頼み」が通用するはずもなく、インバウンドと富裕層の大波に弄ばれていたことに漸く気がついたのではないでしょうか。彼の地が「なに、どうってことないさ、またすぐに外人さんがわんさかやってきてくれる。」ではなく、今回の COVID-19禍を教訓にして、”点~to~面+質”プロモーションに力を注いで観光客の分散と回遊、多層な観光客の受け入れの必要性を学んでくれることを願っています。
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