如風
COVID-19終息後の航空業界 - (1)
Quote:トラベルボイス-3月26日
IATAは2020年3月24日付けで、新型コロナウィルス(COVID-19)による航空業界の損失額について見通し(3月6日予想)を更新した。
2020年の旅客収入は前年比44%減、2,520億ドル(27兆7,200億円)減と予測。
2020年業績予測を地域別にみると、アジア太平洋地区の航空各社ではRPKベースで前年比37%減、旅客収入は前年比880億ドル減、北米ではRPK27%減、収入で500億ドル減、欧州RPK46%減、収入760億ドル、中近東39%減、190億ドル減、南米41%減、150億ドル減、アフリカ32%減、40億ドル減。
この結果、世界の航空業界全体ではRPKが対前年38%減、旅客収入2,250億ドル減と試算した。
ASKについては、第2四半期は前年比65%まで落ち込むが、第4四半期には同10%減まで回復するとしている。Unquote
2020年4月16日現在、世界中のCOVID-19の感染者数は2,065,906人と報告されています。約64万人のアメリカを筆頭に、スペイン・イタリア・ドイツ・フランスが10万人を超える感染者を抱えています。患者数の多い20ヵ国の合計患者数が1,823,420人、日本の10,019人を含むその他国・地域の合計が242,486人となっています。
我々がCOVID-19の終息を望遠するにあたり、より現実的に状況を理解する必要があります。
感染者数2,065,906人はPCR検査受検者のうち陽性であると診断された感染者の数である、即ちCOVID-19陽性であることを証明するためにはPCR検査が大前提になるということです。
医療体制が脆弱でPCR検査自体が実施できないアフリカ、中南米、南西アジア、島嶼諸国は言うまでもなく、ある種政治的・経済的な理由からPCR検査数を極力少なく抑える国があることを考慮すると表に出てこない感染者が世界中に存在していてこれらの感染者が次のパンデミックを引き起こす起爆剤として水面下に潜んでいるのです。
いずれ、アメリカでもヨーロッパでも感染者数が減少して死者数が減れば自ずから自国でのCOVID-19終息宣言を発出することになります。外出制限が徐々に緩和され、街中の商店が開き、飲食店の営業が始まり本来の日常が戻ってくるでしょう。一方で明るい日差しの下残念ながら終息宣言を待つことなく息の根を止めた企業・商店・飲食店のシャッターが開くことなく経済活動はその姿を大きく変えることでしょう。
空の便も、国内線の運航が徐々に始まり空港も賑わいを取り戻すでしょうが、そこにはほんの数か月前まであったお馴染みの航空会社の姿がなく、生き残った航空会社も運休期間中に財政的に疲弊し、グラウンディングさせておいた機体の整備や機体のローテーションの都合で十分な座席供給ができない状況が起こることでしょう。
最大の国内マーケットを持つ中国やアメリカ、ロシア、オーストラリアでは国内線の需要が急速に回復するものの国際線の運航は双方の国の入国規制の強弱と解除のスピードにかなり影響されます。一方で、中東アラブ、シンガポール等国内マーケットが小さい、乃至はマーケット自体がない国々は国際線の主要なP2Pトラッフィックの運航を回復するまでに相当な時間がかかることを考えておく必要があると思います。
一口に回復と言っても、漠然としているうえマーケットによって進行のスピードが異なるのですから航空業界の特性を念頭に、完全回復までの道筋を3段階の異なるフェーズを追ってみてみることにします。
フェーズ(1)- Preparation Period
アメリカ、ヨーロッパ各国の感染者数が増え続ける一方それまで表に出てこなかった途上国の感染者数の一部が国際医療サポートチームの努力で浮き彫りになる。途上国の感染者の倍加速度がそれまでの先進国のものとは比較にならないほど急速に進み、死亡率も二桁パーセントに迫り国境の完全封鎖が強化され人的交流が極端に制限される状態が継続する前提で、航空会社の生存をかけたフェーズ(1)を考えてみましょう。
国際線の旅客便がほぼ壊滅状態にある中で細々と飛び続ける各国の国内線の運航便数も最大で65%程度、搭乗率も50%以下で一便あたりの旅客収入で運航コストを賄えない状態です。この状況に対して、IATAはいち早く各国政府に対して自国の航空会社への財政援助を求めるステートメントを出しています。
確かにこの度のCOVID-19禍は前代未聞、例外なく全ての業種にとって先が見えない危機的な状況であることは理解できます、しかし思い出してみてください、1980年代 空の自由化が加速化し、国営航空会社が次々に民営化され「自由競争」の名の下で大が小を潰し、業界の寡占化を推し進めて空の覇者と目される僅か20社程度が世界の空を支配することがほんの4か月前まで黙認されていたことを。
その間、財政的に厳しい会社に対する国家・政府による救済をことごとく非難してあからさまなアジテーションで中傷し結果的に競争力を失い、財務危機に苦しむ同業他社を嘲り笑っていたのもこれら20社程度の巨大航空企業だったことを。
今だからこそ、この難局にあたり都合よく政府による財政援助を当てにするのでなく、自らの努力で荒波を乗り切って再び大空の覇者たる地位を築き上げることがこれら巨大航空企業に求められているコーポレート・レスポンシビリティであると思います。更に、ここまで札束を振りかざして買収、吸収して自社の傘下に置いたグループ関連会社・子会社の危機救済も株主としての責任即ち、ソシアル・レスポンシビリティを果たすべきであると思います。フェーズ(1)では、各民営航空会社は国家による財政援助を受けずに自助努力でこの難局を耐え忍び、株主として手に入れた関連航空会社をも救済するための緊急財務計画を立てることが求められます。
先が見えない状況を憂慮して 従業員の一時帰休、解雇は止むを得ず 社内留保を切り崩しながらグラウンディング中の航空機の点検整備に注力することを怠ることのないようにしなくてはなりません。
運航乗務員の健康に留意しながらも、一定の需要が存在する貨物輸送がある限りフレーターはもとより旅客便の貨物スペース、無人の客室をも有効に活用して一定のカーゴ収入を確保する努力を怠らないことが重要です。
汚染した貨物や感染した運航乗務員からの感染を防ぐために空港における水際対策、防疫体制を強化して少なからず存在する生命線である貨物輸送を絶やさない努力を続けるべきです。
今後数か月のタームで終息を迎える国、地域が出始めることを見据えて 運航再開時即ちフェーズ(2)が訪れた際の路線計画並びに機材編成を的確にシミュレーションして乗務員のリカレント・トレーニングの実施を継続することが重要であることは言うまでもありません。
フェーズ(1)はあくまでも準備期間と認識して、何時運航を開始しても万全の状態で機体、乗務員を動かせるようにすべての力を注ぐべきなのです。最も恐れるのは、長い長いCOVID-19禍の末に漸く飛ぶはずの飛行機が整備不足で運休したり、最悪 インシデント、アクシデントを起こしてしまっては航空業界全体の信頼を失うことになってしまいます。
最新記事
すべて表示2019年11月に中国武漢で初の新型コロナウィルス感染症の症例が報告されて以来およそ2年が経ちその間世界はあらゆる手段を講じて感染拡大を抑え込む努力をしてきました。 しかし残念ながら、2022年1月7日現在世界の新型コロナウィルス感染者数の累計は遂に3億人を突破してさらに日...
2020年12月15日に日本政府は急遽12月28日から2021年1月11日までの期間の国内旅行に対するGTTCの補助を一時停止することを発表しました。 7月22日に東京を除外して、しかも当初公表していた旅行(宿泊)費用の15%相当の地域共通クーポンの配布を遅延させた形で始ま...
師走を迎え何かと慌ただしい季節になりました。例年であれば各地の師走の行事が報じられクリスマスから新年にかけての気分が盛り上がるはずなのですが、今年はそのような盛り上がりはなく新型コロナウィルス関連の報道ばかりが報じられる殺伐とした年の瀬になっています。最新(2020年12月...
Commentaires