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  • 執筆者の写真如風

COVID-19終息後の航空業界 - (2)

フェーズ(2)- Resumption Period

国、地域レベルでの外出禁止・自粛制限が解除され人の移動が始まるフェーズ(2)は航空会社にとって待ちに待った運航開始局面です。

このフェーズ(2)をいかにマネージするかでこれ以降21世紀の航空業界の在り方が大きく変わることが考えられます。

フェーズ(2)を迎える前提は、北米・ヨーロッパ・中国を含む北東アジアの各国、地域が(暫定的な)COVID-19感染拡大収束言を発出して自国内の移動制限を解除、海外渡航については条件付きで緩和するまでに状況が好転する必要があります。

注意すべきは、海外渡航の緩和に「ある一定の条件が付く」、という点です。これは、医学的見地とは別に今般のCOVID-19禍が勃発する以前から世界中に蔓延していた自国優先主義やポピュリズム政策が大きく影響する可能性があるということです。

11月の大統領選挙のためだけに自国優先主義に突き進むアメリカ、一帯一路の美名のもと途上国に経済・軍事拠点を築く中国、その米中の対立、Brexitでは白馬に跨りEUの守護神を気取りながらCOVID-19禍では自国優先主義に邁進するドイツ、原油の産出量で世界経済をコントロールして世界経済に影響力を誇示するロシア、アメリカ、中東産油国がCOVID-19の感染防止を名目にした政治・経済的対立国への不当な圧力による渡航制限を強化する恐れがあるのです。

具体的には、アメリカが中国からの入国者に特定の制限(ビザ申請の強化)を課してその報復に中国もアメリカからの入国者に同様の制限を課するポリティカルハラスメントとか、自国民が渡航する際に自国航空会社を優先して利用するように求めるナショナリズム、医療援助、原油輸出などを含む経済支援の見返りに自国に有利な航空権益を強要するエコノミックハラスメント等々民間航空輸送を悪用した不当な政治介入が業界全体の健全な発展の妨げになることが懸念されます。これらは今日の国家レベルでの航空行政を担うICAO、民間航空業界組織であるIATAが各々単体では手が及ばない高次元の政治問題であり、問題解決には国連を主体に WHO、WTO、ICAOをはじめとする国際機関並びに、IATAがフェーズ(2)に到達するより早い段階で予めの道程を示す必要があります。


さてフェーズ(2)を迎えるにあたり先ず最重要なのが、P2Pトラッフィックを如何に健全に安定的に運行させるかです。

20世紀は、P2Pから始まりハブ&スポークに至り更に再びP2Pが復活するネットワークのクラッシュ&ビルトが繰り返されてきました。マーケットが拡大局面にある段階では、自由競争の下「空の自由化」が大幅に拡大して第6の自由を行使して自国を経由しながら他国と他国の間を結ぶ運航が増加しました。しかし、COVID-19禍からの回復局面においてはP2Pトラッフィックこそが最優先されるべきで他国から自国へのP2P需要がない航空会社が、他国から他国への需要を第6の自由を行使して略奪的な価格で輸送することは厳に制限されるべきであると思います。


フェーズ(2)を迎えるにあたりもう一つ重要なのが機材編成です。世界の航空機メーカーが淘汰された結果、現在ではボーイング社とエアバス・インダストリーが世界の航空機の約90%を生産しています。中単距離機材のB737-MAXが2019年3月以降世界中で運航を停止している現在、130~230席の単通路狭胴機はほぼA320ファミリーと73MAX以外のB737に独占されている状態です。一方で、長距離大型・中型機材はバリエーションが豊富で、現役で10機種以上があります。その中でも着目すべきは、A380です、2007年10月から通算251機が各国のオペレーターに引き渡されていますが、既にこれ以降の生産は終了しています。

A380の計画が始まったのが1990年台初頭、東西冷戦の象徴であるベルリンの壁が崩壊し世界経済は好調、日本はバブル経済の終焉を目前に世界中の航空会社が成田空港への新規乗り入れに列を作って並んで待つ時代でした。

現在のCOVID-19禍の衝撃との比較で引き合いに出される2008リーマンショック直前で各航空会社は業績が好調、機材とネットワークの拡大にしのぎを削っていた最中で、A380は巨大な需要を持つP2Pルート用機材として世界中で注目されました。

110機のA380を運用するエミレーツをはじめ世界中の14航空会社で運用されているA380ですが、3クラスで525席、モノクラスで853席は、いかに大きな需要があるP2Pでも持て余す程のキャパシティであることを知るのにそれほどの時間はかかりませんでした。


今般のCOVID-19禍からの回復局面でこれら251機のA380は、14社の業績回復の重い足かせになることは間違いありません。昨今、中古航空機市場でA380を買い求めるオペレーターは皆無ですから何某かの方法で飛ばし続けなくてはなりませんが、「飛ばすも地獄・留め置くも地獄」、どの段階でどのような形で引退させるべきか経営者の素早い判断が求められるところです。


さて、フェーズ(2)を迎えるにあたりP2Pトラッフィックに資源を集中させて、機材編成を見直したらその次に考えるのは、営業とレベニューマネジメントです。

いずれの航空会社でも2020年第1四半期~第2四半期に削減した座席数、失った有償旅客、旅客収入を今後(早くても)2020年の第3四半期~第4四半期に取り戻せるはずはないので、フェーズ(2)以降に復活する路線ごとの細かなルートプロフィタビリティーを綿密に計算して極力イールド(旅客単価)重視の施策方針に舵を取るべきです。何故ならば、航空業界は20世紀後半から今日まで質より量を重視するロードファクター神話の下、不毛な企業間競争を続けたことでその基礎体力を失い「運べども儲からず」の財務体質に目をつぶり続けることに慣れてしまい、薄利多売を標榜する「値段在りき」の無策な旅行会社の言いなりになって箱根の高級旅館一泊の値段で3泊4日の海外パッケージツアーを造成するIT運賃を垂れ流し続けてしまったからなのです。

この前代未聞の危機を業界全体で共有するとともに、この危機をサプライヤーである航空会社が再びイニシャチブを手中に取り戻すチャンスであると認識して禍を福に転じさせる努力をするべきなのです。


市場原理は極めて明快で、需要が供給上回れば値段が上がり供給過多になれば値段は下がります。葉物野菜が品薄になれば、スーパーの値札は高値に書き換えられますが、豊作になれば値札は下がります。

フェーズ(1)の航空運送市場は需要がほぼ消滅、一方で、供給もほとんどない状態です。即ちマーケットはゼログラビティの状況になっていると考えられます。これから全面的終息宣言を見据えての局地的回復局面フェーズ(2)で考えられるシナリオは2つだけです、一つは供給座席数を極限まで絞り込んだ上で過去四半世紀にわたって培ってきたレベニューマネジメントの概念を一旦リセットして旅客単価を43%上げて、ロードファクター70%でも十分な路線収益を確保できる価格設定を行い、直販比率を80%に上げることで健全な財務体質を築き上げる。その後需要の動向に応じて供給量を調整して最終的にはCOVID-19前のレベルと同等乃至はそれ以上の座席供給を目標にします。

考えたくないもう一つのシナリオは、回復初期の段階で供給量を一挙に戻して供給過剰の状況を作り、B2B流通のチャンネルを再開して、薄利多売専門旅行会社が誘い掛ける「今こそ、思い切った価格でツァーを売りましょうよ、ほかの航空会社も皆さん需要喚起のために今までにない料金で乗ってきますよ!」の甘言に乗り結局限られた貴重な旅客需要にもかかわらず運航コストかすかすの収入しか得られない旅客単価に苦しむネガティブスパイラルに陥ってしまうシナリオです。


さて、次はいよいよフェーズ(3)Operation Periodです。

これから何日、何週間、何か月もしかして何年という長い時間の末に世界は落ち着きを取り戻し、経済活動も活気を取り戻して我々がほんの数か月前まで 「当たり前」に思っていた日常が戻ってくるでしょう。その時、航空業界はあのCOVID-19禍から何を学び、何を目標に、これからの時代 即ち After COVIDを進んでいくのでしょうか。

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