如風
Go To トラベル・キャンペーン一時停止と旅行会社・宿泊施設
更新日:2020年12月18日
2020年12月15日に日本政府は急遽12月28日から2021年1月11日までの期間の国内旅行に対するGTTCの補助を一時停止することを発表しました。
7月22日に東京を除外して、しかも当初公表していた旅行(宿泊)費用の15%相当の地域共通クーポンの配布を遅延させた形で始まったGTTCですが開始から5か月、東京を補助対象とし、地域共通クーポンの配布を始めてから3か月半、ここにきてキャンペーンにフルブレーキがかかったことに旅行客、旅行観光・宿泊業界をはじめ関係者からは驚きと失望の声が上がっています。
元よりこのGTTCは今春安倍内閣で立案されたもので、新型コロナウィルスの感染により打撃を受けた業界を援助する目的で打ち上げた総額1兆6,000億円余りのGo Toキャンペーンの一部で、旅行業者、宿泊施設並びに観光関連業界を救済するための国家プロジェクトでした。
国土交通省観光庁の発表によると、11月末までにGTTCの利用者は延4,000万人に上り 9月以降の宿泊者数が前年を上回る宿泊施設が出るなど一定の成果が上がっている一方、日々の生活に困窮する低所得層や休日もなく感染者の対応に追われる医療従事者、更には宿泊料金が10,000円前後のビジネスホテルに対する恩恵が無いことなど制度の矛盾に対する不満も出ていました。
今回、年末年始の旅行繁忙期にGTTCの補助を一時停止したことで恐らく同期間の予約の3割から4割、以後の感染拡大次第では6割以上がキャンセルされるのではないかと考えます。
当該期間に予約されていた旅行をキャンセルするにあたり、12月24日までに申し出があった場合にはキャンセル料を免除する方針を打ち出したことには一定の評価をしますが、冷静に考えますと本来税金から捻出していた旅行(宿泊)費用の35%補助と15%分の地域共通クーポンの合わせて50%分を単にキャンセル料の肩代わりに振り向けただけで政府の予算執行はイーブンになるわけで我々が支払った税金で辻褄が合うことに変わりはありません。
更に、旅行をキャンセルした旅行者が免除されたキャンセル料は、キャンセルを受けた業者に対してキャンペーン事務局を通じて35%-上限14,000円人/泊(12月27日までの旅行・宿泊)、50%-上限20,000円人/泊(12月28日から2021年1月11日までの旅行乃至は10日までの宿泊)でキャンセル料の発生の有無にかかわらず一律支払われることになります。
これを旅行会社の国内募集型企画旅行の商品造成・素材仕入れ・原価率の面から検証すると不思議なことが見えてきます。
先ず、国内募集型企画旅行(以降パックツアー)の原価率乃至は利益率です。パック旅行を販売するにあたり旅行を主催する旅行会社(A)が同業の旅行会社(B)に販売を委託する場合は、販売手数料として旅行費用の7~10%を(B)社に支払います、その為他社の代売を前提とした場合の旅行原価率は凡そ78~80%になることが多く、メディアツアーと呼ばれる新聞広告募集旅行の原価率も広告費を念頭に代売ツアーとほぼ同率になることが通例です。
一方で、インターネットセールスの場合は販売コストがほとんどかかりませんので原価率は90%近くまで高くなります。即ちパックツアーの利益率は流通チャンネルを問わず押しなべて10%前後に留まりこれが旅行の薄利多売を誘発しているともいえるわけです。
然るに、ここに至り政府国土交通省が GTTCの補助停止の特例措置として旅行業者に「キャンセル料の発生の有無にかかわらず一律35%~50%のキャンセル料補助」を打ち出したということは、パック旅行の参加予定者がツアーに参加するよりキャンセルしてくれたほうが遥かに儲けが大きいという棚ぼた補助を与える結果となってしまったわけです。
それでは、パック旅行の主催旅行会社が請求される宿泊施設やバス会社に対するキャンセル料はどうなるのか?という疑問が生まれるのは当然です。答えは、「請求されども支払うことなどありません。」
何故なら、常に「売ってやる。」的な目線でサプライヤーに対応し「オフ期(閑散期)に送客してやっているにも拘らず、政府が決めたGTTC停止に対してキャンセル料を請求するとはどういう了見だ!もう二度とお宅を使ったツアーは販売しない。」と言われればおいそれと正規の契約に基づいたキャンセル料をバイヤー(主催旅行会社)に求めるサプライヤーがいるでしょうか。この表現は極端かもしれませんが、旅行会社の中でも殊にサプライヤーの手仕舞い後(宿泊日・運航日直前)の空室・空席を狙って叩きまくってタダ同然の値段で仕入れて同業他社よりも安い値段で販売することで成長してきた旅行会社には往々にして起こりえる例と言えるでしょう。
国土交通省は、旅行会社から申し出のあったキャンセルに対して実質的なキャンセル料の有無にかかわらず又その補助金がどのように流れるのかを検証することなく一律キャンセル料補助を主催旅行会社に支払うわけですから旅行会社にとっては濡れ手に粟、一件でも多くのキャンセルをモノにしたいと思うのも無理はありません。
テレビ報道で、年末年始に800件の受注があったという旅行会社に取材がありました、仮にこの旅行会社の旅行商品の当該期間の平均旅行費用が50,000円として売り上げ総額は4千万円、通常の収益は凡そ4百万円~5百万円ですが、800件すべてが12月24日までに取消しになったとすると一律20,000円人/泊のキャンセル料補助を受けるとこになり結果として会社には1千6百万円の補助金が転がり込んでくる計算になります。
補助金がどのように流れるのかを検証することなく一律に支払われるとすればに次のような可能性もあります。
Aさんが12月28日出発の一泊二日の宿泊付きバス旅行20,000円をGTTC割引適用で13,000円で購入後、GTTCの対象から除外されたことを理由に主催旅行会社に12月24日までにキャンセルを申し出たとします。
旅行会社は、キャンセルを受け付けGTTC事務局にはキャンセル補助金10,000円を申請します。ところがこの旅行会社はその後Aさんに「同じ旅行を10,000円キャッシュバックしますので参加しませんか?」と持ち掛けると、勿論Aさんにとっては異存はなく当初予定していたGTTC割引分の7,000円に加えて地域共通クーポン3,000円分まで割り引かれて実質10,000円で予定通りの旅行に参加することが出来ることになり喜んでこの申し出を受け入れるでしょう。旅行会社は、Aさんの旅行の再予約をしたうえで既に入金済みの13,000円から3,000円をAさんに払い戻して手続き完了です。この予約キャンセルから再予約までの一連の流れを「キャンセル&リブック」と呼びます。
一見すると悲劇の主人公であるAさんを見るに見かねて救済の手を差し伸べた旅行会社は白馬の騎士のように見受けられます、ところがそこにはあるカラクリが・・・・Aさんにキャッシュバックされる10,000円は、旅行会社が後日GTTC事務局経由で受け取るキャンセル補助金(血税)が充てられます。Aさんが支払った10,000円とキャンセル補助金の10,000円を合わせた20,000円が旅行費用として計上され、旅行会社は正規料金の20,000円を基にした利益を確保することが出来るわけです。加えて、サプライヤーに対する送客実績を上積みすることが出来る上 期初の契約に基づくボリュームインセンティブ(目標達成報奨金)を確保することさえ可能になるというわけです。
このままでは、旅行会社救済にはなるもののサプライヤーたる宿泊施設はあまりにも可哀そう、と思うのは人情、何とかして宿泊施設にも恩恵を与えられないものなのでしょうか。
ご安心ください、宿泊施設も必ずしも客室販売を旅行会社の流通一本に頼っているわけではありません。自社のウエブページ、宿泊予約サイト、OTA(オンライントラベルエージェント)など多くの流通チャンネルを駆使することでリスクを回避しながら流通コスト(販売手数料)を上乗せして外部への卸値を設定することで自社サイトの最安値を誇り利益率を上げる努力を怠ってはいません。
因みに、以下に二つの宿泊施設の自社サイトのキャンセル規定を見てみましょう。最初は、箱根に昨年オープンした施設です。
宿泊日を12月29日一泊、一室二人で宿泊する場合の宿泊費は136,363円です。キャンセル料は宿泊の4日前まではかかりませんが、3日前~2日前までが50%、前日80%に設定されています。と言うことは、GTTCの補助対象から外れたことで予約者が宿泊をキャンセルするにあたり12月24日までに申し出た場合キャンセル料を請求することはできませんが、今回の国土交通省の決定によって40,000円の補助金を受け取ることが出来ます。
同様に、都内中心部の有名な宿泊施設。同じ12月29日で一泊、一室二人で宿泊すると159,600円です。キャンセル料は21日前から4日前までが10%、3日前を切ると100%だそうです。12月25日にキャンセルの場合のキャンセル料は15,960円ですが24日までにキャンセルしてもらえればキャンペーン事務局から40,000円の補助を受け取ることが出来るというわけです。
如何でしょう、本来キャンセル料と言うのは旅行者の都合でツアー乃至は宿泊のキャンセルが発生した場合それによって発生する実損を補填するために設定されるべきものが、GTTCがあったばかりに主催旅行会社、宿泊施設が自ら設定したキャンセル規定を大幅に超えた優遇で利益補填を行い経営補助をするものにすり替えられてしまったのです。
当DMCで常々主張しているように、GTTCの補助は、閑散期に限定した上で人気観光地と閑散地で割引率を変え、更に宿泊費の高額な施設の割引率を低く抑える一方で宿泊費の安い施設に高い割引率を設定することで富の公平分配を促し、出来ることなら地域共通クーポンと抱き合わせた事前購入システムで運営してもらいたかった、と考えます。
さて、皆さんはこの年末年始をどのように過ごされる予定ですか?
Merry Christmas & A Happy New Year!
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