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  • 執筆者の写真如風

IR誘致とオーバーツーリズム

更新日:2020年5月18日

​前章では 日本版 IR についてカジノ解禁に焦点を当てて見てきました。

​この章では、カジノを含む IR(統合型リゾート)の誘致について今問題になりつつあるオーバーツーリズムを考慮しながら見ていきたいと思います。

​過去のオピニオンの中で、オーバーツーリズムを解消するために ”点~to~面+質” が重要であることを海外の観光政策の成功例をもとに述べさせていただきました。極端に偏った ”点~to~点”プロモーションの末、既に訪日外国人観光客の増加により時期的に、乃至は恒常的にオーバーツーリズムの傾向がみられる都市・地域が出始めており その結果、地域住民の日常生活が不便になったりプライバシーが侵害されるなどの弊害が報告されています。そのような中、政府のツーリズム関連の中長期ビジョンでは、2030年には2018年比凡そ2倍となる6,000万人の訪日観光客を見込んでいます。

仮に訪日観光旅行者数が年間 6,000万人に達し それらの観光客が2018年レベルの比率で日本各地を訪れるとすれば、京都(市域、乙訓、山城、南丹、中丹、丹後を含む)には、凡そ1,550万人(1日平均42,400人)、岐阜県白川村には130万人(1日平均3,500人)が訪れることになります。

伏見稲荷

​2019年1月にオランダ政府観光局が「Perspective Destination Netherlands 2030」と題する同国ツーリズムプロモーションの ビジョン を発表して今までの観光戦略を転換しました。又、クロアチアのドブロブニク市では旧市内の飲食店に、店外(テラス席等)での営業を禁止する条例が市議会を通過しました。

オランダ政府の新観光戦略は、①ツーリズムの恩恵と負担のバランス、②全オランダが魅力的な観光地であること、③容易に訪れることができる街々、④サステイナビリティ、⑤ホスピタリティの5つの優先事項からなり、「全てのオランダ人がツーリズムの恩恵に浴すること」を目標とし これまでの量(観光客数)重視のプロモーションから質(観光消費)重視に軸足を移し 更にこれまでの「観光客重視」政策から「住民重視」に大きく政策転換することで今後10年でオーバーツーリズムを解消してサステイナブルなインバウンドツーリズムを実現しようとするものです。

一方のドブロブニク市の場合、ユネスコの文化遺産にも登録されている旧市街をピンポイントで訪れる観光客の増加で「観光客を見に訪れる観光地」からの脱却を図る為 飲食店の数、座席数を絞り込み旧市街に滞留する観光客を城壁の外に誘導することを計画しています。


インバウンドツーリズム後進国の日本は オーバーツーリズムには目を瞑って2030年6,000万人の量的目標に向かって一心不乱に箱物作り、観光誘致プロモーションにまい進しています。その延長上に現れたのが、カジノを含むIR誘致なのです。

2016年12月には「IR 推進法」が成立し、既に国内各自治体がIR誘致に名乗りを上げています。今後、誘致を希望する自治体は2021年7月末までに国に申請を行い、2022年には最大3か所の自治体が正式に候補地として認定されることになります。

2019年12月現在誘致を表明している自治体は、大阪(夢洲)、長崎(佐世保ーハウステンボス)、横浜、和歌山、愛知(常滑)、名古屋、幕張、東京(お台場)の8か所です。(北海道の2自治体は棄権)

ここからは、各誘致希望自治体について個々のメリット・デメリットと言ったクリティカルなコメントは極力避けた上で 客観的にどの様な場所を IR 候補地として認定すれば、(しなければ、)今後予想されるオーバーツーリズムを回避しつつ 最大の経済効果を生み出せるかを考えてみたいと思います。

日本でIRの候補地を決めるにあたってまず最も重要なのは、国内旅行者の交通の便でしょう。国内旅行者がIRにアプローチしやすく且つIRに滞留しないためには To/From での複数の交通機関の選択肢を確保する事が重要で、鉄道、航空、海路、道路が整っていることが必須です。東西南北360度の集客・散客が可能であることが理想で、IR内外に潤沢な宿泊施設、観光施設が用意されていることも忘れてはならない重要な要素です。しかしそれだけでは 単なる ”点~to~IR”のプロモーションでしかなく ”点~to~面+質”のプロモーションとは程遠いものに成り下がってしまいます。

即ち交通機関、宿泊施設の確保と共に重要なのが、IR前後にどれだけ多くの観光客を周辺に分散させることができるのか、そして分散した観光客がどれだけ周辺地域に於いて消費するかと言う点です。

前章で、シンガポールとマカオの成功例を参考にしましたが、この2例と日本型IRには決定的な相違点があることに注目すべきです、即ち シンガポールもマカオも非常に狭いある種閉鎖された国土・エリア(*1)に域外からの観光客を呼び込みその国(区域)内ですべての需要を満たして旅行が完結してしまえばよい究極の ”点~to~IR”デスティネーションであるのに対し 日本では、IRを一つのツーリズム素材と見做したうえでIRと、IR前後をパッケージして包括的な旅行として

点~to~面” でのプロモーションを行わなくてはならないということです。

​(*1)シンガポール共和国 = 国土面積720平方㎞(東京23区よりわずかに広い)

​   マカオ(中華人民共和国マカオ特別区 = 地域面積28.6平方㎞(東京品川区より

   わずかに広い)

更に訪日観光客及び MICE(*2)関連訪日客の目線から、From/Toでの国際空港並びに新幹線を含む鉄道幹線の利便性、イベント前後のアミューズメント、インターナショナルレベルから民泊まで様々なカテゴリーの宿泊施設などが必要になります。可能であればIRにアプローチするための手段の一つとして大型クルーズ船を念頭に、バス移動で30分圏内に大型国際船ターミナル港があれば尚望ましいと思います。(クルーズ船利用客は、ホテルは使用せずに船内に宿泊することになる)

さて、以上の点をもとにそれでは日本に於いて、IRを誘致するに当たって不向きな場所とはどのような立地なのかを逆説的に検証してみましょう。

​(*2)MICE = Meeting, Incentive, Conference, Exhibition の略。(会議・招待旅行

   ・学術会議・展示会等の単体/複合イベントの総称)

1.半島部分に位置する立地:袋小路になってしまいIRから先に移動できず、行き/帰りとも同じ数の旅行者が交通路の選択肢を失って渋滞する原因になる。(例:三浦半島、能登半島、伊豆半島など)

2.国際空港から距離的に離れた立地:訪日観光客のマジョリティが利用するであろう、成田・羽田・中部・関西各空港とのFrom/Toで不便があれば折角のIRへの集客が思うように出来ずIRを目的とする訪日観光客を増やすことができない。(例:山陰・四国・甲信越・東北・北海道など)

3.鉄道幹線から離れた立地:自ずから移動手段が限られてしまい少ない交通手段に旅行客が集中して混乱を招く。(例:山陰・四国・紀伊半島・伊豆など)

4.既にオーバーツーリズムが懸念される立地:京都など

それ以外にも、IR前後の旅行素材が地理的に限定されるような場所や、オーバーツーリズムの危険がある地域に隣接した場所、人口密集地や自然災害による被害が懸念されるような場所もIRには不向きな立地と言わざるを得ません。

まだまだ数多くのクリテリアがありますが先ずはIRに不向きな立地を消去法でデリートしたうえで、地元選出の国会議員の選挙公約に忖度せず冷静かつ客観的に候補地を選定することが望まれます。その上で、懸念されるギャンブル依存症対策やマネーロンダリング防止策、正規雇用の拡大などに向けたきめ細やかな政策が前広に立案されることに期待します。

​​さて、非常に偏った私のオピニオンにここまでお付き合いいただき有難うございました。

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