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  • 執筆者の写真如風

シーズナリティ(季節波動)- 序章

更新日:2020年3月23日

​そもそも我々日本人にとっての旅行を歴史の観点から紐解いてみますと、古来「お伊勢参り」や「大山詣」のような宗教色が印象強い、ある種の ”苦行” に端を発します。

人生に一度行くことができるか否かの晴れの舞台、ご近所・親戚一同・友人各位の代理祈願と羨望の眼差しを背に(お土産を当て込んだ)餞別を戴き一張羅の着物に身を包んで意気揚々と目的地に旅立ったのです。同様に、「湯治」や「薬師参拝」は、病治癒を目的(建前)とした ”行” と見做されていたのです。

一方、中世の貴族や武士達は四季折々変わりゆく自然の姿を愛で、春の桜・秋のもみじの下で宴席を張り「わが世の春」を楽しみつつ「諸行無常」を儚みながら歌を詠み許されぬ恋に身を焦がしたのです。

桜花

時を経て江戸時代には、庶民も人目をはばからずに花見、紅葉狩りを楽しむようになり(建前の無い)娯楽を実践することが出来るようになりましたがそれでも遊びを目的とした旅が日常化することはなく門前町の旅籠や温泉地の湯治施設は ”苦行” のために訪れる参拝者や、病を治すために ”行” をなす病人のために雨露をしのげる場を提供するだけでした。

ままねの湯ー湯河原

太平洋戦争が終わり、日本が戦後復興に向けて槌音をひびかせるのに歩調を揃えるかのように日本人の新たな ”行” 、即ち ”旅行-たびぎょう” の時代が訪れたのです。GHQ の統制が厳しく海外旅行の門戸は閉ざされていたものの1950年代には新婚旅行がブームになり、国内旅行先として熱海・宮崎・別府が活況を呈し、その後修学旅行の目的地として、日光・京都・奈良・東京が受け皿として栄えることになるのです。それまでの旅籠は、旅館に姿を替え 湯治場は温泉旅館になり周辺には土産屋が軒を並べて餞別返しのお土産を旅行客に提供し、観光地の基礎が築かれたのです。

東京オリンピックが開催された1964年は、戦後焦土から復興する日本が広く海外にその経済成長と平和主義の存在感をアピールする重要な年であったのみならず、国内の自動車専用高速道路や東海道新幹線開通をはじめとする近代化へのインフラが整備され始めた年でもありました。更に1960年代中期は一般人に海外旅行への門戸が開かれたエポックメーキングな時期でもありました。わずか半世紀前まで 一部の業務出張以外で国外に出ることが出来ず万人にとって夢の彼の地でしかなかったハワイやパリが(莫大な)旅費さえ払えば実際に訪れることができる旅行先になったのですからこの海外観光旅行の門戸開放の衝撃は日本人の旅行感を大きく転換させることになったのです。

先ほど来、”苦行”、”行”、”旅行-たびぎょう” などと述べてきましたが、年間に1,900万人の日本人が海外旅行に出かけている現在でも 日本人にとっての ”旅行” とは遊び・物見遊山と言ったネガティブな要素が拭い去れず、敢えて ”旅” に ”行” (ぎょう)をつけることで楽しむことの罪悪感を薄めて且つ旅の消費行動を正当化しようとしている小賢しさが見て取れるのです。(勤勉な)日本人にとって年休をとってまで海外旅行に出かけるとか、災害で避難生活を余儀なくされている人がいるのに温泉三昧、貯金もしないで夫婦でクルーズ旅など周囲の目を気にすることで旅行のプライオリティ(優先順位)がその他の消費に比べて格段に低くなり、「周囲のみんなが旅行に行く時期だから私も出かける」的 群れの行動原理が旅行の時期の偏りに拍車をかけているのです。

盆暮れ正月など先祖代々受け継がれてきた暦の上の主要な行事、4月・6月・年度末など学業、業務のスケジュールは日本人の旅行傾向にとって非常に重要な決定要素である上、一つまみの社会情勢の変化が突然 "群れ" の旅行自粛につながることを身を以て知っている旅行のサービスプロバイダーは常に暦を先読みしながら繁忙期、閑散期、中間期を的確に見据えて販売施策と価格設定、所謂レベニューマネジメントと在庫管理(インベントリーコントロール)を行い、且つ旅行自粛の元になる危険要素に目を見張り利益を最大限に引き上げつつ経費削減に日々努力をしているのです。

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