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  • 執筆者の写真如風

レベニューマネジメントと在庫管理

更新日:2020年3月23日

レベニューマネジメントは、イールドマネジメントとも呼ばれ 航空会社やホテルなど在庫の繰り越し販売ができない商品を出発(宿泊)当日までに効率的に売り切ることを目的に、販売に関連する諸々の可変要素を考慮した在庫管理(インベントリーコントロール)と価格設定(プライシング)を行う基本概念です。

単純に考えると、繁忙期 客が多いときには大型の飛行機を飛ばして高い運賃で航空券販売をし、閑散期 客が少ないときは小型の飛行機に変えて繁忙期と同じ運賃で販売すれば良いではないかと思われますが、実際には飛行機の持つ能力(航続距離)や機材繰りの観点から必ずしも現実的ではありません。

ホテルなど宿泊施設も同様で、100室の客室を1年365日毎日満室で36,500室/年売り切ることが究極の目標であり、ある日は75室販売し 空室で売り残った25室を翌日125室にして売ることは出来ないのです。


Final approach to Haneda Int'l Airport

ここからは、航空会社の実例を参考にどのようには、レベニューマネジメントとインベントリーコントロールが行われているのかを見てみましょう。

レベニューマネジメントを実行するに当たり大前提となるのが規制緩和です。前章のシーズナリティでも少し触れた、アメリカの航空規制緩和は、1978年に始まりそれまでの保護政策から自由競争政策へと180度航空政策を転換しました。アメリカに端を発したディレギュレーションは瞬く間に全世界に波及し、それまでは国が筆頭株主となって収入を吸い上げる一方、時には資金を注入し国の航空権益を代理する国営航空会社が姿を消しその結果、民営になった航空会社には既得権に基づく路線運航便数、運賃、サービス等の規制、言い換えると保護がなくなり自由裁量に基づいた弱肉強食の競争・競合が起こりました。

アメリカでは規制緩和により価格統制が無くなったことで航空会社は柔軟で機動的な運賃設定が可能になり、一時的に消費者に恩恵が齎されましたが、競合する路線から「略奪的(低)価格」で他社を排除した大手航空会社の寡占化が進み、当該路線で運賃が高騰する事態が起こってしまいました。

これでは単なるチキンレースでしかなく、真っ当なレベニューマネジメントからは遠く離れた規制緩和の弊害でしかありませんでした。

航空座席の予約にコンピュータが導入されると、レベニューマネジメントは一挙に加速します。黎明期にCRS (Computer Reservation System) と呼ばれた予約システムはその後、GDS (Global Distribution System) に名を替え、中立性と守秘性を担保しつつ複数の航空会社の予約システムとリンクしながら独自の進化を続けました。

各航空会社は自社の予約システムとGDSを駆使して、各路線ごとの販売動向(需要波動)、販売時期と旅行日、残席状況、販売価格帯、キャンセル率、NO-SHOW (予約発券後の不搭乗)率などを細かく検証して同じカテゴリーの座席に複数の運賃を設定して1便当たりの売り上げを上げることに成功したのです。

その実例が以下のサンプルです。

エコノミークラスAP60(60日前事前購入) 100,000円

エコノミークラスAP30(30日前事前購入) 120,000円

エコノミークラスAP14(14日前事前購入) 150,000円

ノーマルエコノミー (事前購入制限なし) 190,000円

お分かりのように、現在国内線、国際線で広く販売されている「早割り」早期購入割引運賃が AP (Advance Purchase) 運賃なのです。同じエコノミークラスでも購入する時期が早ければ早いほど運賃は安くなりますが、一方で航空券に課せられる制限が厳しいものになります。たとえば、購入後のキャンセルができない、予約変更・経路変更不可、他社への振り替えができないなど利便性の面からは直前で旅程が確定し、出発後に変更の可能性がある業務出張には不向きな航空券と言えますが、早期に旅行スケジュールを決めることができるレジャー需要にとっては価格面でとても魅力的な運賃と言えます。

机上論であることは承知の上で、これら複数の運賃をミックスして販売した場合と もっとも高いノーマルエコノミークラスしか設定しない場合の一機当たりの売り上げ予想をしてみましょう。

中間期の特定便で販売可能席数が100席と仮定して、190,000円のノーマルエコノミーしか運賃設定がない場合の平均座席占有率が65%とすると、売り上げは12,350,000円になります。

同じ条件で、AP60 / AP30 / AP14 を設定して インベントリーを各々10 / 15 / 20席、更にノーマルエコノミーを70席開けたとします。(15%のオーバーブッキング)

(1) AP60 = 10名, AP30 = 13名, AP14 = 9名, ノーマルエコノミー = 40名ですと、総売り上げが11,510,000円で 840,000円減収。

(2) AP60 = 10名, AP30 = 15名, AP14 = 13名、ノーマルエコノミー = 40名では、12,350,000円となり単一190,000円の運賃設定で65%の座席占有率の場合と同じ売り上げになります。

(2)のケースをご覧いただいてお分かりのように、各種AP運賃を出して中間レベルの運賃(120,000円/150,000円)を多く売ることで本来190,000円で購入したであろう乗客の38%がより安いAP運賃にダウングレードしますが、客数は20%増える結果になります。

以上は、シーズナリティに対応したレベニューマネジメントと言うよりは事前購入に軸足を置いた在庫管理の実例でしたが 次の項では季節波動を織り込んだレベニューマネジメントをのぞいてみることにしましょう。

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